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優秀なのに仕事ができないフィリピン人。フィリピン人の仕事観とマネジメントの方法論

フィリピンでマネージャーとして働き始めて数年、何度も「自分の常識」が通用しない場面に遭遇してきました。

今回は、「フィリピン人の仕事観」という、多くの現地マネージャーが頭を悩ませるテーマについて掘り下げてみます。「なぜ彼らはそう行動するのか?」この疑問に対し、私は長らく「やる気の問題」や「国民性」という曖昧な言葉で片付けていたのですが。。

しかし、オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステードが提唱した「6次元モデル」に関連した本を読んでから現場で起きている不可解な現象の辻褄が合ったのです。

この記事では、このモデルを補助線として、フィリピンの現場での体験を再解釈し、どうすればフィリピンでうまくマネジメントできるのかを整理してみようと思います。

この記事でわかるポイント!

  • なぜ「報・連・相」が機能しないのか? その背景にある「権力格差」
  • チームワークを最優先する集団主義の強みと、そこから生じる「足の引っ張り合い」
  • 給料日直後の散財と金欠から読み解く「超・短期志向」のリアル

優秀なのに「噛み合わない」違和感

私がフィリピンで働いていて最初に戸惑ったのは、スタッフの能力の高さと、業務遂行プロセスのちぐはぐさ。

彼らの英語力は高く、人当たりも非常に良い。新しいITツールの使い方もすぐに吸収します。しかし、いざ「期限」や「進捗管理」の話になると、途端に歯車が噛み合わなくなるのです。

例えば、こんなやり取りが。

私:「このタスク、今日中にできる? 無理なら言ってね」

スタッフ:「Yes, Sir! 任せてください(笑顔)」

~翌日~

私:「昨日の件、どうなった?」

スタッフ:「We are working on it Sir. (実はまだ終わっていません)

(悪びれる様子もなく)」

当初、私はこれを「無責任だ」「嘘をつかれた」と捉えて憤っていました。「Yes」と言った以上、守るのが仕事だろうと。

しかし、長く働くうちに、これは彼らが怠惰だからではなく、彼らの中に根付いている文化的な行動原理、いわば「OSの違い」によるものだと気づきました。

ホフステードの6次元モデルとは

分析の前に、今回用いる「ホフステードの6次元モデル」について簡単に触れておきます。

ヘールト・ホフステード博士は、IBMの世界50カ国以上にわたる子会社の従業員データを元に、各国の文化的価値観を分析しました。同じ会社(IBM)で働く人々を比較することで、純粋な「国民性・文化」の違いを浮き彫りにしたのです。

このモデルの特徴は、文化の傾向を「0〜100」のスコア(指数)で表している点です。

  • スコアの意味: テストの点数(良し悪し)ではなく、価値観の偏りを示すスペクトラムです。100に近いほどある傾向が強く、0に近いほど逆の傾向が強いことを示します。

フィリピンという国のスコアを見ると、特定の項目(項目の内容に関しては、後述します)で極端な数値が出ています。現場で感じる「違和感」の正体は、この数値の偏りに表れていました。

1. 権力格差(PDI):上司には「No」と言えない

Hofstede Insights - Country Comparison

フィリピンのPDI(権力格差指標)に関して。

これが高いと、社会や組織の中に「階層」が存在することを当然として受け入れ、上司と部下の間には明確な「距離」がある状態を指します。フィリピンのスコアは非常に高く、90を超えています。

そのため、以下のような理由からこの文化圏では、日本人が重視する「報告・連絡・相談」のハードルが極めて高くなります。

  • 上司や年長者を無条件に尊重し、畏怖する傾向がある
  • 部下から上司に意見したり、悪い報告を上げたりすることは、礼を失する行為と感じやすい
  • 上司の指示待ちになりやすく、自律的な判断を避ける

そして、上司からの「できますか?」という問いに対して「No」と答えることは、上司の期待を裏切る行為であり、彼らにとっては心理的に困難です。そのため、その場を穏便に済ませるために「Yes」と答え(これはCommitmentではなくAcknowledgementに近い)、結果として納期遅れが発生する。

 

以前、あるリーダー職であるスタッフのミスをチーム全員が入っているメール(CC)で指摘したことがあります。業務上の単純な訂正連絡のつもりでしたが翌日から、明らかに私を避け不貞腐れた態度をとるようになりました。

後で現地の従業員に教えてもらって知ったのですが、人前(メールのCC含む)で指摘を受けたことで、彼のプライドを傷つけていたようで、コミュニティ内での面子を潰されたと思っていたようです。そのため、公衆の面前では防衛反応をとらざるを得なかったのだとか・・。

メンバーの面前で怒られて、プライドを傷つけられたと感じ退職してしまうようなケースもあります。こういった文脈もあり、フィリピンでは、知らない所で地雷を踏んでしまいコミュニケーションがスムーズに進まないことがよくありました。

2. 個人主義(IDV):強固な集団主義社会

次に、個人主義指標(IDV)ですが、フィリピンはこのスコアが低く、集団主義的な傾向が強い国です。

  • 「個」よりも「集団(家族・チーム)」の利益を優先する
  • 自分だけが目立つことや、集団から浮くことを恐れる
  • 職場内の人間関係が、業務ルールよりも優先されることがある

ここには「相互扶助」という素晴らしい側面がある一方、ビジネスにおいては「足の引っ張り合い」として現れることがあります。

チームのモチベーションを上げようと、個人の成績をグラフにして貼り出したことがあったのですが逆効果でした。成績の良いスタッフが周囲から孤立することを恐れてわざと手を抜いたり、チーム全体の雰囲気がギスギスしてしまったのです。

 

現地では「Crab Mentality(クラブメンタリティー)」という言葉がよく使われます。桶の中のカニが一匹だけ這い上がろうとすると、他のカニが足を引っ張って引きずり下ろす現象です。 誰か一人が突出して評価されるシステムよりも、チーム全体で達成感を共有できる仕組みの方が、スムーズにオペレーションを回しやすくトラブルを回避しやすいです。

 

また、現地での社員同士のコミュニティは特に強い傾向にありトラブルも発生しやすい。お互いの給与を話すことも珍しくなく「同じ階級なのに給与格差」があると不平不満を招きチーム全体でクレームに発展することがあります。そのため、現地の法人は階級ごとに給与ベースを一律、昇給に関しても一律、と決めている所が多く、その方が安全です。

フィリピンには、労働雇用省(Department of Labor and Employment)があるのですが、フィリピン人は権利意識がとても高く、集団訴訟も多い。対応を間違えると大事になるのでどのようにオペレーションを設計するか、公平性を意識した方がうまくいきやすいです。

3. 短期志向(LTO):未来は誰にもわからない

フィリピンは、長期的志向(LTO)のスコアが非常に低い国です。 これは「遠い未来のために今を犠牲にする」よりも、「今この瞬間を大切にする」という価値観です。

  • 将来の不確実なリスクに備えるよりも、現在の充足を優先する
  • 「なんとかなるさ」という楽観的な精神
  • 長期的な計画や納期に対する意識が希薄になりがち

私が「今日中にお願い」と依頼した仕事が、翌朝になっても提出されていないことが何度もありました。 私の感覚では「就業時間の18時まで」でしたが、彼らにとっては「日付が変わるまで」、あるいは「明日やったとしても大勢に影響はない」という感覚だったのです。

この短期志向はプライベートでも顕著に現れており、お金の使い方などが良い例ではないでしょうか。 フィリピンには「13th Month Pay(13ヶ月目の給与)」という、法律で定められたボーナスがあります。12月に支給されるのですが、この時期の彼らの羽振りの良さは凄まじいものがあります。

私のスタッフたちも、ボーナスが入った瞬間に最新のiPhoneやブランドのスニーカーを買ったり、現地では高価なスタバのコーヒーを片手に出社してきます。「将来のために少しは貯金したら?」と私が言っても、「今楽しまなくてどうするんですか!」と笑い飛ばされます。 そして案の定、年明けには金欠になり、「給料の前借りはできませんか?」と真顔で相談に来たりします。

そういった特徴はフィリピン政府も熟知しており、フィリピンの給与は月に2回あります。また、給料日のあとにブッフェなどいくと分かるのですが、めっちゃ繁盛してます(笑)

最初は呆れましたが、災害や政情不安が多いこの国において、「不確実な未来」に備えるよりも「確実な現在」を最大限に楽しむことは、彼らにとって極めて合理的な生存戦略なのかもしれません。

現場での気づき:忠誠心の向かう先

ここまで書くとマネジメントが難しいように思えますが、彼らには非常に強力な武器があります。それは「人への忠誠心」

彼らの忠誠心は、抽象的な「会社」には向きません。しかし、「自分を気にかけてくれるボス」に対しては、驚くほどウェットで深い関わりを見せてくれます。

これは、私ではなく別のマネージャーから学んだことですが、 その方は、現地採用で20年以上働いているベテラン日本人マネージャーです。彼のチームのフィリピン人スタッフはパフォーマンスが異常に高く、離職率も極端に低い。彼に「なぜそんなにうまくいくのですか?」と秘訣を聞きました。

その秘訣は、戦略やロジックではなく、「普段の食事」にあったのです。

彼は、頻繁にフィリピン人スタッフとローカル食堂でランチを食べ、週末には自宅のパーティーに招いたり、社内企画の親睦会を頻繁にしていました。今の日本の感覚だと「プライベートの侵害だ」「業務時間外の付き合いは強要できない」と敬遠されがちな「飲みニケーション」を、全力で実践していたのです。

フィリピンでは、食事を共にすることは、単なる栄養補給ではなく「私たちは家族(ファミリー)である」という儀式に近い意味を持つみたいです。スタッフと同じ目線で笑い、食事を共にすることで、心理的安全性が築かれていたのです。

私もその教えを実践し、意識的に彼らとランチに行ったり、時にはピザを振る舞ったりして、仕事以外の会話を増やしてみました。すると、驚くべきことに

・ミスの報告をするようになる(素直になる)

・普段定時ですぐ帰ってたのに、進んで残業してくれるようになったのです。

「会社の利益」を説いていた時は動かなかった彼らが、私という個人と関係性に変化が出た瞬間、進んで助けてくれる。

ドライな契約関係ではなく、ウェットな家族的関係を築くこと。それがパフォーマンスを引き出す最大の鍵だと思います。

マネジメントの鉄則

これらの文化的な特性を踏まえ、私は自分のマネジメントスタイルを以下のように心がけています。

  • 叱る時は密室で、褒める時は盛大に
    人前での叱責はタブーです。ネガティブな話は必ず個室で行います。逆に、褒める時はチーム全員の前でオーバーなほど褒め称えます。
  • 期限は細かく設定する
    「来週まで」ではなく、「今日の15時まで」と区切ります。短期的なゴールを連続させることで、彼らの集中力を維持してもらいます。(長期設定はギリギリに仕事を進めてしまう可能性があるので、短期的にマイルストーンを置いていくことが重要です)
  • チーム単位で評価する
    個人の競争ではなく、「チーム全員で達成したら全員で食事に行こう」のような、連帯感を刺激するインセンティブを用意します。

今後、深掘りした記事を書いてみますが、フィリピン人のこういった特性は、植民地化されていた期間が長いという歴史的な背景もあり「コロニアルメンタリティ」と呼んでいます。また、当然、文化としてのコンテクストの違いもある。

フィリピン人の仕事観は、日本人からすると、フラストレーションが溜まることも多いと思います。しかし、行動を変えようとするのではなく、まずはこちらが文化背景を理解し、接し方を考えてみる。


「権威は保ちつつ、情で繋がり、短期集中でタスクを回す」

そう切り替えた時、彼らは持ち前の明るさと助け合いの精神で、仕事のやりやすさ、パフォーマンスもぐっと伸びるはずです。


出典・参考文献: Hofstede Insights - Country Comparison Tool https://www.hofstede-insights.com/country-comparison/